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静かに意味を変える、日本語翻訳の10の落とし穴

日本語は、訳文が流暢で、文法的に正しく、もっともらしく読めて、それでいて間違っている、ということが起こる言語です。しかも、どちらなのかを訳文そのものから見分ける手がかりがありません。フランス語やスペイン語との違いはそこにあります。そうした言語からの翻訳は、失敗すればたいてい目に見えて失敗します。日本語からの翻訳は、失敗してもきれいな文章に仕上がっていることが少なくありません。

この問題の核心を、ある翻訳者がHacker Newsで的確に言い表しています。

Dalewyn氏のHacker Newsでのコメント。マンガが英語にどう訳されてきたかを論じたスレッドより。日本語は英語原文からの翻訳です。

別物の日本語表現が二つ、英語では一つの文に潰れます。エラーは出ません。訳文は完成しているように見えます。情報だけが、静かに消えています。

主語の欄が空のままの日本語の一文が、三通りの成り立つ英文へと枝分かれしていく図主語の欄が空のままの日本語の一文が、三通りの成り立つ英文へと枝分かれしていく図
同じ二語の日本語の文に、成り立つ英訳が三通りあります。どれになるかは文脈だけが決めます。

この記事では、日本語と英語のあいだを行き来するときに繰り返し起きる10の失敗を取り上げます。それぞれについて、実際の例、壊れる理由、そして出来上がった訳文に使えるチェックを示します。日本語を英文中にローマ字で書くときの表記については、ヘボン式ローマ字を参照してください。

文法:日本語の原文が語らないこと

最初の三つは語彙とは関係がありません。日本語の文法が、英語の文法では必須になる情報を要求しないために起きます。空いた枠は、誰かが埋めなければなりません。

1. 主語のない文を、訳す側が推測で埋める

日本語の文には、主語も代名詞も書かれていないことがよくあります。文脈が補ってくれる、という前提で書かれているからです。二語だけの文を見てみます。

好きです。

完全で、まったく自然な日本語です。これが英語では「I like it」にも「I like you」にも「she likes him」にもなります。前に何が書かれていたか次第で、どれにでもなります。文そのものには、絞り込む手がかりが一つもありません。

機械翻訳は何かを出力しなければならないため、どれかを選びます。たいていは「I like it」です。単独で読んだときに最も出てきやすい解釈だからです。直前の段落が第三者の話だった場合、出力は、文法的には完璧な、もっともらしい誤りになります。

これは文章が短いほどひどくなります。Hacker Newsのあるコメント投稿者が、この法則を簡潔に言い当てています。「テキストの断片が小さいほど、コンピューターの成績は悪くなる」。UI文字列、ボタンのラベル、チャットの発言、字幕の一行。どれも短く、文脈から切り離された断片で、日本語でいちばん省略が起きやすい場面です。

**チェック:**英訳に出てくる「I」「you」「he」「she」「they」の一つひとつについて、日本語の原文に対応する語があるかを探します。なければ、翻訳者が推測したということです。その推測が前後の段落と合っているかを確かめます。

2. 数の区別は任意、助数詞は必須

日本語の名詞は、ふつう単数か複数かを示しません。複数を表す形(接尾辞の「たち」「ら」や、「人々」のような畳語)はありますが、任意であり、ほぼ人を指す語に限られます。猫がいます は、英語にすると「there is a cat」にも「there are cats」にもなります。英語はすべての名詞について、どちらかを選ばせます。つまり名詞の数だけ小さな推測が積み上がります。

逆向きでは、別の問題が起きます。英語の「three files」をそのまま日本語にすることはできません。助数詞が要り、どの助数詞になるかは、数える対象がどういう物かで決まります。

助数詞 数える対象
製本されたもの 本を三冊, three books
平らで薄いもの 紙を三枚, three sheets of paper
細長いもの ペンを三本, three pens
機械、車両 車を三台, three cars
小さな動物 猫を三匹, three cats

英語話者には、そもそもこの選択という発想がありません。三つや三個という汎用の言い方に逃げることはできますが、製品の文面では曖昧に響きます。「three files」は、そのファイルが紙なのか、綴じた文書なのか、画面上のアイコンなのかが分かるまで、正しい日本語になりません。UI文字列の一覧表だけを渡された翻訳者には、それが分かりません。

**チェック:**日本語の訳文に出てくる数を順に見ます。物を数えている数には助数詞が付きます。その助数詞が、自社の製品での実体に合っているか、翻訳者の思い込みで選ばれていないかを確かめます。

3. 動詞が最後に来る、否定も最後に来る

日本語は主語・目的語・動詞(SOV)の語順で、時制も丁寧さも否定も動詞が担っています。そのすべてが文の末尾に来ます。

彼は明日の会議に出席します。

彼は明日の会議に出席しません。

この二文は、末尾の「ます/ません」以外はまったく同じです。人が一文を通して読むぶんには何の問題もありません。問題が起きるのは、日本語を断片のまま処理する場面です。二行に分かれた字幕、二つの変数を連結して作るUI文字列、文の途中まで流し込むチャット、行単位で報酬を受け取って一行ずつ訳している翻訳者。いずれもそうです。

英訳するには文全体を組み替える必要がある、ということでもあります。日本語を最後まで読み終えるまで、英文を書き始めることができません。

**チェック:**二つの文字列、二つの字幕行、二つの表のセルに分かれた日本語の文を、その状態のまま訳してはいけません。まずつなぎ直してから訳します。

文体と敬語:日本語が決めさせてくること

英語は、相手との関係を決めないまま一文を書くことができます。日本語ではそうはいきません。選ぶ動詞のすべてが相手との関係を表してしまい、中立という選択肢がありません。

4. 丁寧さは動詞ごとの選択

Hacker Newsのあるコメント投稿者は、日本語話者は実質的に四つの言語を話しているようなものだ、と書いています。挙げているのは「くだけた話し方、普通の丁寧語(です・ます)、謙譲語、敬語」の四つです(原文の keigo は、ここでは尊敬語を指していると読めます)。ただし後ろの二つは段階ではありません。尊敬語と謙譲語は、相手を上げるか自分を下げるかという向きの違いであって、丁寧さの目盛りの上下ではありません。数が四つという点は、そのとおりです。英語の「please check this」一つが、少なくとも次の形に分かれます。

日本語 どんな相手・場面か
常体 確認して。 親しい相手、または目上から目下へ
丁寧語 確認してください。 中立的な丁寧さ。初対面でも無難
尊敬語 ご確認ください。 顧客や目上の相手へ
謙譲語 ご確認いただけますか。 取引先へのビジネスメール
英語の文「please check this」を、常体・丁寧語・尊敬語・謙譲語の四通りで並べ、それぞれ誰に対して言うかを添えた図英語の文「please check this」を、常体・丁寧語・尊敬語・謙譲語の四通りで並べ、それぞれ誰に対して言うかを添えた図
英語の原文は、このどれを意味するのかを言いません。何かが決めるしかなく、何も指定しなければ、それを決めるのは訓練データです。

英語の原文には、この情報がまったく含まれていません。だから翻訳する側が補います。機械が補うのは、訓練データをならした平均です。あるコメント投稿者は、GPT-4の英日出力について「英日では、GPT-4の口調が少し『無礼』だったり直接的だったり、『変』だったりすることが多い。DeepLは、教科書に載せる例文と同じくらいのものだ」と書いています。

その「教科書どおり」が常に正解とも限りません。ビジネス日本語は、別のコメント投稿者が書いているように「日本人自身でさえ、就職するときに使い方を教わらなければならない」ほどのものです。日本語でビジネスメールを出すとき、丁寧さは文体の好みの問題ではありません。返信が来るか、誰かの上司に転送されるかの分かれ目です。

機械翻訳したカバーレターが読まれずに落とされるのと、失敗の仕組みは同じです。違うのは、英語の二段階に対して日本語には四つの形があり、しかもそれが一本の目盛りではないという点です。

**チェック:**訳す前に丁寧さの段階を決めます。訳したあとではありません。そのうえで訳文を読み、最初の一文から最後まで同じ段階に揃っているかを確かめます。文章の途中で段階がぶれることが、機械出力のいちばん分かりやすい兆候です。

5. 「you」にあたる中立な語がない

英語の you は、読み手には意識されません。日本語の「あなた」はそうはいきません。文脈次第で、よそよそしくも、教科書じみても、けんか腰にも、妻が夫を呼ぶ響きにもなります。英日の機械翻訳がよく既定として出す語ですが、日本語の書き手がまず選ばない語です。

日本語で二人称を表す方法は、ほかに三つあります。使われやすい順に並べます。

  1. そもそも言いません。 「お時間ありますか」が、英語の「do you have time?」にあたる普通の言い方です。
  2. 名前に「さん」を付けます。 「田中さんはどう思いますか」のように、本人に向かって直接言います。
  3. 肩書で呼びます。 「部長」のように、代名詞ではなく肩書を使います。

これがいちばん問題になるのはマーケティング文です。英語のランディングページは you で組み立てられています。そのまま直訳すると、「あなた」だらけの、吹き替えの下手な広告のような日本語ページになります。

**チェック:**日本語の訳文に「あなた」が何回出てくるかを数えます。ビジネス文やマーケティング文なら、正しい数はゼロか、それに近いはずです。

6. 敬称は英語に移せない

さん、様、先生、先輩、君、ちゃん。どれも、英語に対応する形のない情報を含んでいます。

いちばん分かりやすいのが「田中さん」(Tanaka-san) です。この形は性別を示しません。ところが英語の選択肢は「Mr. Tanaka」か「Ms. Tanaka」しかなく、どちらを選んでも日本語が言っていない事実が足されます。「Tanaka」だけにすれば丁寧さが消え、英語のビジネス文脈ではそっけなく響きます。「Tanaka-san」のまま残せば情報は保てますが、いかにも翻訳文だと分かります。

「先輩」(senpai) はもっと厄介です。対応する英単語がそもそもありません。辞書どおりなら「senior colleague」ですが、そっけなく、上下関係と継続的な関わりのニュアンスが落ちます。「mentor」は、実際にはない関係を持ち込んでしまいます。

正解はありません。あるのは方針の選択だけです。そして、選んだ方針は全ページで揃っていなければなりません。

**チェック:**案件ごとに方針を一つ決め(残す、落とす、置き換える)、そこから外れた箇所を検索して洗い出します。欠陥は選んだ方針のほうではなく、一つの文書に複数の方針が混ざっていることのほうです。

7. 話し方が性別・年齢・立場を映し出す

日本語の創作や会話には、役割語というものがあります。登場人物の話し方が、本人が自分について何か言うより先に、その人物が何者かを教えてしまう仕組みです。一人称だけでも多くを語ります。「俺」はぶっきらぼうで男性的、「僕」は柔らかく、若い男性に多く、「私」は中立的で丁寧、「わたくし」は改まった場面で使われます。文末の終助詞、たとえば「ぜ」「わ」「のよ」が、そこに性別や態度のニュアンスを重ねます(「わ」が女性的に響くのは、主に標準語での話です)。

英語には、これに相当する体系がありません。つまり英語の台詞を日本語にするときは、どこにもない情報をこちらで作り出すことになります。外すと、人物そのものが別人になります。Legends of Localization はその結果を記録しています。Stardew Valleyの男性キャラクターが女性的な話し方と男性的な話し方を行き来する、凄みのある悪魔がオネエ言葉で話す、ハリー・ポッターの男性キャラクターが日本語では女性的に聞こえ、逆に女性キャラクターが男性的に聞こえる、といった例です。

これは通常の意味での誤訳ではありません。一行ずつ見れば、どの行も正確です。人物だけが間違っています。

**チェック:**キャラクターやブランドの声があるものをローカライズするなら、作業に入る前に話者ごとに一段落の指示書を書きます。一人称、丁寧さの段階、年齢、聞き手との関係。英語の文字列一覧からこれを読み取ることはできず、翻訳者は日によって違う推測をします。

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語彙:安全に見えて安全でない語

残る三つは語の問題です。語の形はそのまま入ってくるのに、意味だけがついて来ません。これも双方向で起きます。

8. カタカナ語は空似言葉になる

日本語は英語から多くの語を借用し、そのあとで意味を変えてきました。一部は和製英語、つまり日本で作られた英語です。多くはむしろ、借りたあとで意味がずれた普通の外来語です。どちらにせよ、そのまま使えそうに見えて罠になります。

カタカナ 英語話者が思い浮かべる語 英語で言うと
マンション mansion 鉄筋の集合住宅。アパートの一段上
クレーム claim 苦情
サービス service 無料、おまけ(本来の意味も併存)
ナイーブ naive 繊細、世間慣れしていない。英語ほど刺がない
コンセント consent 電源の差込口
スマート smart 細い、すらりとした
バイキング Viking 食べ放題
6つのカタカナ語を、英語話者が読み取ってしまう語と、実際の意味とを並べて示した図6つのカタカナ語を、英語話者が読み取ってしまう語と、実際の意味とを並べて示した図
どれも、文法的に正しい文の中に実在する英単語として現れます。だから警告が出ません。

サポート記録の「クレーム」が claim と訳されれば、苦情の記録が保険金請求の記録に化けます。「ドリンクはサービスです」が service と訳されれば、無料という肝心の意味が消えます。機械翻訳は有名な例こそ処理しますが、残りは取りこぼします。しかも、こちらはその取りこぼしに気づけません。出力が、文法的に正しい文に収まった実在の英単語だからです。

**チェック:**日英の作業では、英単語に見えるカタカナ語すべてに印をつけ、見た目を信用せず辞書で確認します。

9. 英語のままにすべきものまで訳してしまう

逆方向の失敗で、こちらも同じくらいよく起きます。日本語のソフトウェアもゲームも案内表示も、英語をかなりの量そのまま残しています。ジャンルによっては、ボタンが Save、Start、Cancel のまま並んでいても誰も気に留めません。それを全部日本語に訳してしまうと、素人くさく、あるいは古臭く見えます。

Legends of Localization は、「Flash Heal」という呪文をカタカナのままにせず「瞬間治療」と訳した欧米のゲームに対する、あるプレイヤーの反応を記録しています。「それを見た瞬間、一気に冷めた」。訳語としては正確です。それでも外しています。このジャンルの日本語では、呪文名はカタカナのままにするのが慣習だからです。

**チェック:**文字列一覧を日本語にする前に、同じジャンルの日本語製品を二、三本見て、どの語が英語のまま残されているかを書き出します。訳せるものを全部訳すのではなく、そのジャンルの慣習に合わせます。

10. 英語に対応する表現のない決まり文句

冒頭で触れた「いただきます」(itadakimasu) の問題は、ここに属します。しかも食事の場面に限りません。

  • お疲れ様です は、すれ違いざまの一言であり、退社時の挨拶であり、働きへの感謝であり、相手の労をねぎらう言葉でもあります。英語には、そのどの位置にも置ける語がありません。
  • よろしくお願いします は、日本語のビジネスメールのほとんどを締めくくります。英語にすれば「今後のご厚意をあてにしています」に近い含みですが、英語のビジネスメールの「Best regards」にはそれが一切ありません。
  • いただきます / ごちそうさま (itadakimasu / gochisōsama) は食事の前後で対になります。英語には、二つ合わせて一つ分の言い方しかありません。

なぜこれらが訳しにくいのかは、仕組みを見ると分かります。あるコメント投稿者が説明しているように、いただきますは謙譲語であり、動詞「頂く」が、食事を用意した相手に対して話し手を意図的にへりくだらせている。丁寧さが動詞の文法そのものに組み込まれているわけです。英語の動詞には、それを入れる場所がありません。

同時に、日本語話者自身がこれらを全国一律の儀式として扱っているわけでもありません。別のコメント投稿者は、まさにその一般化に異を唱えています。席を立つときの「ごちそうさまでした」のほうが、出された時点での「いただきます」よりも口にされやすいという指摘です。加えて、テレビはこの習慣を実際より均一なものに見せています。決まり文句をうまく訳せないのが一つ目の失敗なら、それを国民全体の決まりごとのように説明してしまうのが二つ目の失敗です。

チェック:この種の表現に当たったら、対応する決まり文句を探してはいけません。その位置でその表現が何をしているのか(挨拶、感謝、締めくくり、ねぎらい)を見極め、同じ働きをする英語を同じ位置に置きます。

訳文が流暢で、しかも間違っているとき

ここまでの落とし穴には、共通する性質が一つあります。失敗が訳文の表面に出ません。英語としてよく書けています。日本語としてもよく書けています。警告は何も出ません。

機械翻訳はこれを改善するどころか、悪化させます。流暢さのほうが、正確さより速く伸びてきたからです。日本語で作業しているHacker Newsの投稿者が、それを正確に言い当てています。「私の経験では、日本語に関してDeepLは、もっともらしいが不正確な文を作るのがうまい」。日英でDeepLと、丁寧にプロンプトを与えた言語モデルとを比べた別の投稿者は、もっと率直です。「日英翻訳に関して言えば、適切なプロンプトを与えた一流のLLMに比べれば、DeepLはゴミだ」

二人は同じことを別の角度から言っています。現代のモデルは実際に翻訳が得意です。なかでも最も得意なのが、人が書いたように読めるテキストを作ることです。原文が構造的に情報を省く言語ペアでは、「正しく読める」と「正しい」が分かれます。

その大半を見つけられる確認が一つあります。が、ほとんどの人はそれを飛ばします。訳文を元の言語に訳し戻し、返ってきたものを読みます。そのとき探すのは不自然さではありません。何が欠けているかを探して読みます。訳し戻した結果が、意図した主語を失っていたり、一節まるごと落としていたり、違う丁寧さの段階で返ってきたりしたら、読者より先に誤りを見つけたことになります。

逆翻訳と意味の注記を訳文の横に並べて見せるツールは、この見えない失敗を見えるものに変えます。Finkがそれらを一つの画面にまとめ、二度目の翻訳を手作業で行わせないのはそのためです。それで日本語が読めるようになるわけではありません。どこを見ればよいかが分かるだけです。

限界もはっきりさせておきます。ここに挙げたどのツールも、母語話者の目の代わりにはなりません。DeepLは日本語に強く、日本国内でも広く使われています。優れた言語モデルに丁寧なプロンプトを与えれば、長い日本語の文章にもよく効きます。それでも、ここまでの10のパターンでは、流暢で、自信たっぷりで、間違った訳文が出ます。どれも、原文にもともと書かれていなかった情報に関わる問題だからです。ツールで届くのはおよそ95パーセントまでです。残りの5パーセントは人の仕事です。

チェックリスト

訳し終わったら、方向を問わず、出す前にこれを一通り実行します。

  • 代名詞。 英訳の「I」「you」「he」「she」「they」それぞれについて、日本語の原文に対応する語を探します。なければ翻訳者の推測です。文脈と突き合わせて確かめます。
  • 数。 英訳の複数形はすべて、複数だと書いていない日本語の名詞から来ています。一つずつ確かめます。
  • 助数詞。 物を数えている数には助数詞が付きます。自社の製品での実体と合っているか、翻訳者の思い込みで選ばれていないかを確かめます。
  • 分割された文。 二つの文字列、二つの字幕行、二つの表のセルに分かれたまま訳された日本語の文がないことを確かめます。
  • 丁寧さ。 段階を一つ決め、最初の一文から最後まで揃っていることを確かめます。
  • 「あなた」の出現数。 ビジネス文やマーケティング文なら、ゼロかそれに近い数です。
  • 敬称の方針。 文書全体で一つの方針を適用し、前の作業から残った例外がないことを確かめます。
  • 話し方。 各話者の一人称と文末が、その人物像と合っていて、全台詞を通して揃っていることを確かめます。
  • カタカナ。 英単語に見えるカタカナ語を、見た目で判断せず辞書で確認したかを確かめます。
  • 英語のまま残す語。 同業他社が英語のままにしている語は英語のまま、訳している語は訳してあることを確かめます。
  • 決まり文句。 辞書的な同義語ではなく、その位置で果たしている働きに合わせて訳してあることを確かめます。
  • 逆翻訳。 訳し戻して読みます。不自然さではなく、欠けている情報を探して読みます。

よくある質問

なぜ日本語を英語に訳すのはこれほど難しいのですか? 日本語の文法が、英語の文法では必須の情報を書かないからです。主語や代名詞はふつうに省かれ、名詞は単数か複数かを示さず、時制と否定を担う動詞は文の末尾にしか現れません。訳す側はそのすべてを文脈から補うことになり、文脈がなければ推測するしかなく、その推測は出来上がった訳文の表面には出てきません。

日本語から英語と、英語から日本語では、どちらが難しいですか? 難しさの向きが正反対です。日英は、原文が一度も書かなかった情報を取り戻す作業です。誰が何をしたのか、いくつなのか、誰に対してなのか。英日は、原文が必要としなかった情報を作り出す作業です。丁寧さの段階、話し方、助数詞、読者への呼びかけ方。どちらも機械的な置き換えでは済みません。

Google TranslateやDeepLは日本語に使えますか? どちらも流暢な日本語を出します。この言語ペアではDeepLの評価が高く、日本国内でも広く使われています。流暢さは問題ではありません。どちらも自信たっぷりに主語を推測し、丁寧さの段階を一つに決め打ちし、カタカナの空似言葉を英語のそっくりな語に置き換えます。そのどれについても警告は出ません。使うのは構いませんが、使ったあとで上のリストと突き合わせてください。

なぜ日本語の文には主語がないのですか? 文脈から分かるものとして扱われているからです。英語が「Sounds good」や「Been there」で主語を落とすのと同じ仕組みですが、日本語はそれをはるかに高い頻度で、はるかに多くの位置で、改まった文章でも行います。そのため、英語の読者には言いかけの断片に見えるものが、日本語では完全で当たり前の一文です。

英語の文章で、さんやちゃんのような敬称は残すべきですか? 文章の種類によります。絶対の条件は一貫性だけです。残せば性別を特定しない点と丁寧さは保てますが、いかにも翻訳文だと分かります。マンガや字幕では普通のことで、ビジネス文書では珍しいやり方です。「さん」を「Mr.」や「Ms.」に置き換えれば、日本語が言っていない性別の情報が足されます。案件ごとに方針を一つ決め、全体に一貫して適用してください。

日本語の翻訳で、いちばん役に立つチェックは何ですか? 逆翻訳です。出来上がった訳文を元の言語に訳し戻し、文体ではなく、情報が欠けていないかという一点だけを見て読みます。落ちた主語、落ちた一節、ぶれた丁寧さの段階を、母語話者なしで実行できるどのチェックよりもよく捕まえられます。

参照元と参考文献

本文中の翻訳者の言葉は、いずれも公開されているHacker Newsのコメントからの引用で、日本語は英語原文からの翻訳です。Dalewynによるitadakimasugochisousamaの翻訳stevefan1999による謙譲語としてのitadakimasuunsignedintによるこの習慣の実際の使われ方TheDongによる日本語の丁寧さの段階codyrobbinsによるビジネス敬語cehrlichによる短い断片の翻訳methouによる英日の丁寧さの段階CarVacyescoによる機械翻訳の品質について。ゲームのローカライズの例は、Legends of LocalizationのCommon Problems When Translating Games Into Japaneseによります。日本語を組んで公開する際のタイポグラフィとレイアウトの要件については、W3CのRequirements for Japanese Text Layoutが基準になります。ラテン文字で日本語を読む方法についてはヘボン式ローマ字を、機械翻訳が正確さより先に流暢さを手に入れた理由についてはなぜLLMは翻訳に優れているかを、日常的なチェックとしての逆翻訳については言語を学ぶために翻訳ツールを使う方法を参照してください。